2007年01月23日

新書太閤記【8巻】 吉川英治(著)

豊臣秀吉の小説

新書太閤記〈8〉 (吉川英治歴史時代文庫)
新書太閤記〈8〉

毛利との講和をまとめた秀吉は、電光石火、軍を東へ返します。

生き生きしていて、躍動感と瞬発力があります。対する光秀は精彩を欠きます。


■明暗くっきり

時流を味方につけた者と、その波に逆らった者。ふたりの明暗がはっきりと分かれる山崎の合戦。

これに勝利した秀吉は一躍、織田王国の後継者のポジションを固めたかにみえましたが…

 
■とにかく先へ進もう!

この数ヶ月の秀吉は本当にエネルギッシュです。

「細かいことは後だ、とにかく先へ進もう!」というスタンスで何事も解決していきます。


■光秀よりも早く

明智光秀がいくつかの未練にひかれて逡巡するのとは対照的に、秀吉は拙速を尊んで百歩も千歩も前へ駆けていきます。


■勝家よりも早く

柴田勝家が自重万全にこだわって動きを鈍らせている間にも、秀吉はさっさと逆臣・光秀を討ち果たして勝鬨をあげながら、頭の中ではすでに次の一手を考えています。


■リードを広げる

時間は誰の上にも平等に流れていますが、本能寺の変から1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と経つにつれ、秀吉とその他の織田諸将のあいだには、大きな差が生まれます。

とにかく、やる。

秀吉にはこれしかないように思います。

人生はやるか、やらないか。

秀吉はとにかくやった人なんだな〜と。


■漢字が苦手

秀吉が祐筆に手紙を代筆させたときのことです。

祐筆は「醍醐」という字をど忘れして、筆をとめてしまいました。

秀吉は、字がわからないなら「大五」でいい、といいます。

「醍醐」と「大五」ではぜんぜん字が違います。

意味も通りません。祐筆は当惑します。

そのとき秀吉は、次のような意味のことをいいました。


■人生には限りがある

世情が車輪のようにはやく移り変わるこの時代、人生には限りがあるというのに、忘れた字を思い出すことに時間を費やしては、どれほどの業ができるだろうか。


■魔法の言葉

秀吉をますます身近に感じた箇所を引用します。


彼(秀吉)とても巧い戦や思いどおりな計画ばかりではなく、ずいぶん周囲に間の悪いような失策も度々だったのであるが、そんなときも、その失敗失戦にくよくよとらわれている風は少しもなかった。こんな場合、彼が胸の中で思い出していることも、離の一字だった。離とは、忘れるということです。焦りや妄想、執着から離れる。忘れる。


目を閉じる瞬間に離を思い、両のまぶたで執着を断ち切るようにして、頭を白紙にするのです。

いいことを聞いたと思いました。

いやなことを忘れるための魔法の言葉、離。

さらに興味を深かったのは、秀吉でも失敗をするということです。


■秀吉も転ぶ

秀吉というと階段を二段飛ばしくらいの勢いでスイスイと駆け上がるイメージがありますが、ときどきつまづいたり転んだりしているんですね。

それを離の一字でリセットして「さぁまた前へ!」って。

新書太閤記〈8〉