自分の一生をどう使うのか。命をどう使うのか。
それって難しいですよね。でもどこかで決断しなくちゃならなくて。
好きなことをやるのか、向いていることをやるのか。
やりたいことをやるのか、できることをやるのか。
■義経はそそのかされた
義経の場合、人生の目的を決めるキッカケは、ひとりの男との出会いでした。
へんな言い方ですけど、義経はその男にそそのかされたといってもいいかも知れません。
■他人を踏み台にする方法
義経をそそのかした男の名は鎌田正近っていいます。
もともとは源氏武者でしたが、平治の乱で源氏が壊滅したあと、生きるために僧侶になった男です。
彼は人を利用する才覚に恵まれていました。
たとえば…
■彼が人気者になった理由
僧侶になった鎌田正近は、説法の人気を高めるためにある計画を立てました。
まず知人の女性を「毘沙門天の化身」に仕立て上げます。
その上で彼女を自分の説法に出席させました。
これで彼の説法は「毘沙門天の化身が出席するありがたいもの」ということになり、ハクがつきました。
「有名人」の持つ信頼を利用したんですね。
CMや雑誌広告で有名人が「私も愛用してます」っていうのがありますけど、あれと似てますね。
■思わぬ転落!!
こうして鎌田正近は民衆の人気者になりました。
でもある日、事件が発生し、彼は平家から追われる身となります。
当時の平家は絶対的な権力者でしたから、平家に追われるということは、世の中に身の置き場がないということでした。
■追い詰められた男の進路
「こうなったら平家を倒すしかない」と彼は考えます。
そのためには源氏の棟梁の忘れ形見である義経を利用するしかありませんでした。
かつて知人の女性を毘沙門天の化身として利用したように、今度は義経を利用したんですね。
鎌田正近は義経のもとを訪れて、たくみに焚き付けました。
みごとに焚き付けられた義経は「平家を倒す」ということを生涯の目的とするようになります。
でも、あれですよね、読んでて思ったのは…
そそのかされたにしても何にしても、
例えどんなキッカケで人生の進路を決断したとしても、それはそれでいいのかも知れないってことです。
きっかけは何であれ、義経は自分の足で人生を突っ走っていくわけですから、それはもう紛れもなく、誰のものでもない義経の人生なんだな〜って。
どんな経緯があったにしても、自分がこれと決めた道をひたむきに突き進むっていうシンプルな生き方が、この小説の中にはあります。
義経〈上〉 (文春文庫)
義経〈下〉 (文春文庫)